アジア諸国における通貨代替の研究はあまりなされていないことに加え、ネットワーク外部性を明示的に考慮した分析が少ないこと、先行研究の多くにおいて、ミクロ経済学的基礎が欠如していることが指摘されている。 これら2つの課題のうち、当該年度は後者に主眼を当てた分析を行った。具体的には、ミクロ経済学的基礎を持つ通貨代替型money-in-the-utility-functionモデルを構築し、これに基づいて推定式を導出した。これは、通貨代替を分析している先行研究の多くにおいて、推定式に恣意的な説明変数の加除がなされているというミクロ経済学的基礎が欠如していることに対応するものである。例えば、消費者が最適化行動を行うならば、消費の平準化が行われるため、貨幣需要に影響を与える変数は、これらの分析の多くで仮定されている所得ではなく、消費であると考えられる。また、自国通貨、および外国通貨がともに支払手段として用いることができるのであれば、消費が通貨代替の程度に与える影響は相殺されると考えられる。 また、先行研究の分析で用いられている変数は、単位根を持つ非定常変数である可能性があるが、多くの先行研究では、変数の非定常性が考慮されていない。このため、これらの分析で計測された関係が単なる非定常性に基づく「見せかけの回帰」である可能性を排除できない。よって、変数の非定常性を考慮し、実証分析を行った。 分析の結果、マクロ経済が比較的安定していた金融危機発生以前の2000年代のインドネシアにおける通貨代替の進展は限定的であることが示された。これは、近年、インドネシアにおいては、インフレ率が安定的であることに拠っているものであり、さらに、インフレ率が安定化している現在においても、依然として通貨代替の程度が高い水準にあるのは、いわゆる「履歴効果」に拠るものであると考えられる。
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