本年度は研究計画に従い、所得格差と再分配を明示したモデルを作成した。昨年度はアドホックに政府支出が雇用に直接影響を与えるとのモデリングたったが、本年度は政府が一括移転により世代内の経済格差を調整するモデルに変更した。また、想定値として用いてきた外生変数が複雑な効果を与えて分析を不明瞭にするため、モデルを簡素化して経済要因の相互関係の分析とした。 その結果、生産性の上昇は全所得階層、全世代に望ましい影響をあたえるが、政府債務発行による減税や世代間格差の改善はごく一部の限定された世代の厚生しか改善せず、他の世代は悪化させること、一時的な人口増加がそれ以前の世代の厚生を大きく改善させるが、以後の世代はおおむね厚生を悪化し、将来世代でもわずかな世代の厚生が改善する事が分かった。また、政府の格差調整の緩和は特に厚生が悪化する世代の影響を緩和し、場合によっては、厚生が改善する場合もあることが分かった。さらに、生前に資産を贈与するモデル化は、若年による消費増加による消費税負担の軽減で生産増加効果を持ち、かつ贈与という経路を通じて、経済の各変数の変動のより緩やかな変化に結びつくことが分かった。なお、基本構成を完成させたので、論文を作成の上、研究会発表を予定していたが、直前に東北地方太平洋沖地震があり中止となった。そのため、研究をさらに深めた上で、来年度学会などでの発表をしてゆく。 分析結果が複雑化するため、モデルや外生値を単純化したが、できるだけ実際のデータを用いて分析をしたいことから、今後それらの問題を解決するシミュレーション方法を検討する。また、世代内の政策決定プロセスが、簡易なモデル化に留まっており、改善余地があることが分かった。そのため、世代内の所得格差の多様性と政策決定のモデル化をより有意義な形にして行く予定である。
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