近年、流動性という市場の状態を表す変数が価格や価格の情報効率性に影響を与えていることが、株式市場を分析対象としたマイクロストラクチャー研究において注目を集めている。現代資産価格理論ては市場の状態が価格に影響するとは想定していなかったが、とくに金融危機時においでは市場の流動性が低下し、時には消滅することもあるため、市場の流動性は資産価格の決定において無視できない存在であることが明らかになりつつある。為替相場は二国間の通貨の相対価値なので流動性が価格(為替相場)に影響することは考えにくいが、流動性が為替相場の情報効率性に影響する可能性は否定できない。 本研究では、外国為替の電子ブローキング市場であるEBSのデータを用いて、為替レートの情報の効率性とビッド・アスク・スプレッドの構成要素に関する日中の変動を分析した。ビッド・アスク・スプレッドが情報の効率性に与える影響は正であり、取引高に与える影響は負である。これは流動性に関する取引コスト説と取引高に関する非対称情報説を支持する結果となっている。さらに、情報トレーダーは電子ブローキング市場において成行注文よりも指値注文をする傾向がみられ、そのことが原因でビッド・アスク・スプレッドに占める逆選択コストは取引高や情報の効率性と負の関係にあることが確認された。これらのことから、日中の取引が盛んな時期では情報トレーダーによる取引が多いが、情報トレーダーと流動性トレーダーとの間の情報の非対称性が低下することが伺える。この発見は株式市場におけるAdmati and Pfleiderer (1988)の理論と整合的である。
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