オーダーフローには私的な情報が含まれること、つまり市場参加者によって将来のマクロ指標に関する情報や将来の為替予想が異なっていることが先行研究から明らかになっている。こうした市場参加者の情報や予想の違いはこれまで認識されてきたが、データの制約により、厳密な分析が不足していた。取引主体別のオーダーフローを使えば、市場参加者が公的な情報にどう反応し、また将来発表されるニュースを予想できるのか分析することが可能となり、各投資家が保有する私的情報の源泉を明らかになることができる。 本研究では、在英大手銀行の対顧客取引データを使い、市場参加者のオーダーフローが将来発表されるマクロニュースを反映しているかを分析した。将来の為替相場に関する私的な情報を顧客との取引を通じて入手することが多い金融機関は、概して事業会社よりも成長率、鉱工業生産指数、インフレ率、失業率といった経済指標の予想力が高いことが分かった。また、成長率、鉱工業生産指数といった生産面の経済動向はそれらの指標が未発表の段階であってもオーダーフローを通じて価格に反映されていることが明らかになった。インフレ率の上昇はそれ自体がいいニュースにも悪いニュースにもなりえるので、価格影響力はそれほど大きくはない。一方、失業率は金融機関のオーダーフローよりも事業会社のオーダーフローに反映される度合いが大きいが、未発表段階での価格への影響力はそれほど大きくない。ただし、CPIや失業率など、未発表段階で価格への影響力が大きくなかったマクロ変数はニュース発表時に市場参加者の平均的な予想との乖離があるならば、価格に対して大きな影響を与えるが、すでに価格に反映されている成長率、鉱工業生産指数はニュース発表時に平均的な市場参加者に驚きを与えたとしても、すでに価格に反映されているため、価格へのインパクトは大きくない。
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