研究課題
本研究の目的は、金融知識の習得が確定拠出年金加入者の金融資産選択行動(ポートフォリオの効率性)に与える影響を実証的に明らかにすることにある。平成22年度までの研究で、日本の確定拠出年金加入者は、計画性と金融資産運用の関心の高さという2つの指標に基づく4つの異なるタイプの加入者層に分類されることを明らかにした。そこで、23年度は、加入者をタイプ別に分類し、各タイプの加入者に継続的な金融教育(90分の講義を15回)を提供することで、加入者のタイプによって金融教育の効果が異なるのかを検証した。その結果、継続的な金融教育を受けた者のうち、計画性があり、将来を重視し、リスクを受容する者は、分散投資の程度(選択された金融資産の数)、リスク資産への資金配分率、効率的フロンティアからの距離の3つの指標を継続的に変化させることが明らかとなった。一方、リスクを嫌悪する者やリスクを受容できても計画性のない者、将来よりも現在を重視する者は、これらの3つの指標を継続的に変化させないことが示された。2011年、確定拠出年金法が一部改正され、事業主による加入者向け継続投資教育の実施の必要性が明文化された。このような改正の背景には、安全資産に偏っている確定拠出年金加入者の資産運用の現状を、継続的な教育の実施によって変化させたいとの思いがあるものと考えられる。しかし、本研究の分析結果は、継続的な教育が特定のタイプの加入者行動のみに影響を与え、加入者の多くを占める資産運用に無関心なタイプの行動には影響を与えないことを示唆している。すなわち、従来通りの画一的な金融教育では、安全資産に偏っている確定拠出年金加入者の資産運用の現状は変化しないと考えられる。この点を明らかにした点に、本稿の意義があると考える。
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個人金融
巻: Vol.6, No.4 ページ: 31-42
東海大学紀要
巻: 第43号 ページ: 89-103