アメリカの政府システムが持つ「分権的な小さな政府」という特徴は、個人や地域の多様性を尊重する社会システムの重要な一環である。アメリカでは、多様性を尊重することによって、変化に対する柔軟性と新たなイノベーションが促進されており、政府政策においても同様の姿を見て取れる。本研究は、アメリカの連邦補助金を対象に、連邦政府の義務付けと州政府側の裁量性、規律を維持する仕組みと政策形成過程を研究することによって、分権的な政府システムを適切に機能させるための諸条件と制度設計上の具体的なあり方を明らかにすることを目的としている。そのために、2011年度は、以下の研究活動を行った。 1.前年度までに行ったアメリカの保育政策の研究成果を踏まえて、日米の保育補助政策の比較研究を行った。民間市場をベースに構築されるアメリカの保育政策との対比を通じて、現在の日本の認可保育所政策における民間活用の方向性を検討した。成果は、『國學院経済学』と、2012年1月に同大学で開催された国際会議にて報告した。 2.州・地方政府レベルでの連邦補助金の実務と州の財政ルール等について情報を収集するために、カリフォルニア州での調査を実施した(サンフランシスコ市役所福祉プログラム担当部局と現地NPO法人に対するインタービュー調査、財政ルールに関する州・地方政府の資料の収集、カリフォルニア大学バークレイ校School of Social WelfareのA.Scharlach教授との意見交換)。この調査によって得た情報と資料を踏まえて、現在研究を進めている。 3.医療扶助に関する連邦補助金であるメディケイドとSCHIPを対象に、州政府の多様な制度設計と運用の実態と、ボトム・アップ型の政策形成過程について研究を進めている。メディケイドには州政府に大きな裁量性があり、州政府はそれを活かして多様な政策を実施し、その成果が連邦政策へと反映されている。この州政府レベルから制度改革への原動力が生みだされるシステムは、分権的な地方財政を目指す日本にとっても重要な示唆を与えるものである。
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