平成21年度は、イノベーションを起こす新規産業における企業への融資形態がもたらす問題について焦点を当てて分析を行った。新規参入企業への融資では、そのリスクの高さゆえに複数の金融機関が強調して融資する形態をとることが多い。しかし、そのような状況の下では、他の金融機関が融資を引き上げると自らも融資を引き上げるという融資引き上げ競争が生じてしまうという問題がある。こうした状況の下、望ましい政策とはどのようなものになるのかということを理論モデルを構築することで分析した。 具体的には、Morris and Shin(2004)のモデルを応用し、債権者間の協調の失敗の問題と、企業経営者のモラルハザードが生じるという二つの問題が、企業の資金調達にどのような影響を与えるのかについて考察した。その中では、まず、債権者が企業の情報を的確に把握できるとき、企業を流動化したときの価値が高いときは企業が負担する金利は低下することを示した。次に、債権者が企業の情報をノイズを伴った情報でしか把握できないとき、高い流動性価値を持つ企業の場合、債権者間の協調の失敗の問題がより大きくなってしまい、企業の負担するべき金利が高くなってしまい、結果として事前の資金調達が困難になってしまうということを示した。このように、新規産業のように情報が債権者に正確に伝わりにくいとき、非効率な企業の流動化が起きてしまう可能性を示した。そのため、絶対的優先権の逸脱のような手法で、事後的な債権者の取り分を減少させるような政策を採ることで、この問題を解決することができることを示した。このような結論は、新規産業に対する企業の融資と政策の関係性を考える上で貴重な示唆を与えるものと考える。
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