本研究では、イノベーションを促進するために必要なベンチャーキャピタルなどの金融機関の役割と金融政策のあり方について考察する。その際、過年度において人的資産の蓄積に、企業外の資金供給者が企業に対してどのようなガバナンスを行うか、どのような資金供給を行うのかということが重要であることを明らかにした。具体的には、複数の資金供給者が企業に資金提供する際、起業から資金提供者に伝えられる情報の精度が低いとき、資金供給者は資金引き上げ競争を起こしてしまうという協調の失敗が生じてしまう。そしてこの可能性を考慮すると、事前の支払金利が高くなってしまうため、企業の人的資産の蓄積に大きな悪影響を与えることとなってしまう、ことを明らかにした。そしてこうした状況を改善するためには、絶対的優先権の逸脱(absolute priority rule violation)を適用することによって、こうした非効率性を軽減できる可能性があることを示した。以上の結論は、資金供給者の協調の問題が、企業の人的資産の蓄積や、新規企業のプロジェクトの成否に与える影響などを明らかにしており、意義深い研究であると考える。
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