研究概要 |
平成23年度は、前年度に明らかにした債権者間の協調の問題を解決することが、イノベーションを起こす新規企業に対する融資を行う上で重要であるという分析を受けて、以下のような拡張を行った。一つ目は、現実の新規企業への融資の際には、メインバンクなどのような情報優位に立つ債権者と、その他の債権者に分かれる場合があるので、そのような債権者間に非対称性が存在するときに債権者間の協調がどのようになるのかを検討した。次に、そのような非対称な債権者の間で、情報優位にある債権者の健全性が損なわれると、新規企業への融資にどのような影響が出るのかを検討した。 上記の問題に対し、グローバル・ゲームというゲーム理論の中でも最新のトピックを用いて分析を行った。その際、Corsetti et al(2004}という、プレイヤーの非対称性を考慮したモデルを基に、新規企業への融資という企業金融の面から生じる現象に対してモデル分析を行った。そして、そうした債権者間の協調の問題が企業行動の効率性にどのような影響を与えるのかを分析した。 本年度で明らかにしたのは次のとおりである。まず、情報優位にある債権者が健全な時は、その債権者と他の債権者との問の協調がスムーズに行われ、企業行動を切り続ける効果を持つことを明らかにした。しかし、情報優位にある債権者の健全性が悪化すると、この債権者は企業によりリスキーな行動をとってほしいと思う反面、他の債権者は企業に安全な行動をとってほしいという、債権者間で協調が失敗する状況が生じることを明らかにした。その結果、企業の非効率な行動を誘発するだけでなく、非効率な清算を生み出す可能性があることを示した。 Corsetti,G., Dasgupta,A., Morris,S. and H,S,Shin(2004) "Does One Soros Make a Difference ? ATheory of Currency Crises with Large and Small Traders," Review of Economic Studies 71(1),87-114
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