本課題の目的は経済学の根幹を成す期待が持つ特徴を解明することである。この目的のもと今年度は、九州大学の学部生を対象に日経平均株価に関する期待を問うアンケート調査を行い、分析を行った。具体的には、期待と実現値との乖離、期待の分散、期待の改訂と感情が期待に与える影響について分析を行った。 昨年度の分析により得られた、株価が上昇基調にある場合にはその上昇度合いを、下降基調にある場合にはその下降度合いを過少に予測するという結果と、分散を過少に見積もる傾向があるという結果を、現状維持バイアスという一つのバイアスで解釈可能であることを報告する論文"Time Series Properties of Expectation Biases"を新たに得られたデータを用いて改訂し、学術誌に投稿した。 また、近年の投資家心理に関する文献において、期待になぜバイアスがかかるかについて二つの可能性が提起されている。「株価に関する情報を反映して期待は形成されるが、その反映が不十分である」可能性と、「株価とは無関係な個人の情動を反映して期待が形成されている」可能性である。アンケート調査で株価予測と同時に尋ねている経済ニュースに関する設問と身の回りの出来事で何か良いことや悪いことがあったかを尋ねる個人的なニュースに関する設問とを用いてこれらの仮説を検証し、期待は株価に関する情報を反映して形成されるが、その反映が不十分であるために、バイアスが生じることを明らかにした。株価に対する期待形成に限れば情動は影響を与えておらず、人々はある程度は合理的に期待を形成することを示す重要な結果である。これを論文にまとめ、しかるべき学術誌に投稿した。また、期待がどのように改訂されて行くかに関して分析を行い、予測対象となる日が極めて近くなるまで、期待バイアスは消失しないことを発見した。
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