研究実施計画にあるように、平成23年度では、計量分析の実施と英語での論文作成を行った。 具体的には、地域金融機関の再編が、中小規模の取引先企業にどのような影響を与えているのか、資金調達面、企業パフォーマンス、雇用面の視点から検証した。 主な分析結果については、以下の通りである。 まず、第一に、資金調達面においては、金融機関の再編後には、コスト要因である金利は低下傾向がみられた。これは、銀行間の合併により、その地域での銀行競争が緩和され、合併前にみられた銀行によるホールドアップ問題やロックイン効果が軽減されていることを反映したものと解釈される。また、合併実施銀行と被合併銀行の両行と取引を行っている企業は、いずれか一行のみと取引を行っている企業と比べて、高い金利を強いられていたことが明らかになった。さらに、合併後においては、取引先企業への貸出額が伸びていることもわかった。 第二に、企業パフォーマンスを見ると、再編の影響が、資金調達面で見られたような統計的に有意な効果を与えていることは確認できなかった。しかし、これらの銀行からの借入が、企業の利益率にプラスの効果を与えていること、とりわけ、合併実施銀行と被合併銀行の両行と取引を行っている企業は、いずれか一行のみと取引を行っている企業よりも、高いパフォーマンスを維持していることが明らかになった。 最後に、特に、銀行間における再編が雇用に与える影響については、統計的に有意な変化は見られなかった。 以上の分析結果から判断すると、地域金融機関の再編は、予想に反して、取引先企業にはむしろプラスの経済効果を与えていることが明らかになり、この点は、わが国のリレーションシップバンキングの研究成果の1つとして、大きな学術的価値を持つ。
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