本研究は上場ファミリー企業における経営の世襲がどのような時に行われ、コーポレート・ガバナンス、企業行動・業績にどのような影響を与えているのかを実証的に示し、上場企業における経営の世襲が望ましいものなのかを明らかにすることを目指した。そのために1990年度から1999年度までの東名阪市場1・2部に上場していた1818社(金融・電力・ガス業を除く)、1997年~2008年までの日経500企業をサンプル企業とし、各社の全社長・会長の出自(創業者、創業者との血縁ならびに姻戚関係)、創業者一族に関連した大株主(大株主上位20位以内に含まれる一族関係者、資産管理会社、財団法人など)に関するデータベースを作成し、分析を行った。 分析の結果、先行研究よりもより近年の大企業である日経500企業をサンプルとした場合でもファミリー企業は少なくなく、年度、産業、企業規模、企業年齢、資本構成、リスクなどの要因をコントロールした計量分析を行ったところ、創業者が経営に当たっている企業の利益率、株式市場での評価が高い一方で、創業者からその子孫へ世襲が行われた企業の業績は、創業者一族と血縁のないサラリーマン経営者が経営を担っている企業よりも業績が劣るという先行研究と合致した結果を得た。また創業者一族による経営、所有が企業行動に与える影響を分析したところ、創業者一族の出身者が経営にあたっている企業では、創業者一族の持株比率が高いほど、配当行動に歪みが生じていることを示す結果を得た。具体的には利益が赤字の際や借入が多い際に創業者一族の持株比率が高い企業はそうでない企業よりもより高い確率で配当を支払っていた。この結果は、創業者一族の収入が配当金に強く依存しているため、配当を支払うべきでない場合でも、自らが短期的な現金収入を得るため配当を行っているからであると考えられる。
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