平成21年度は、1997年アジア金融危機以降の金融システムの改革に関する視点から、2つの研究、すなわち、国内銀行の不良債権処理に関する分析と各国銀行システムに対する対外ショックの影響についての分析を進めた。前者の分析は不良債権の処理に有効な政策・要因は何であったのか、後者の分析はアジア金融危機後に銀行部門は対外ショックを受けにくくなっていたのかを考察するものである。分析に必要なデータや資料を収集すると共に、実証分析を進めた。 まず銀行部門と対外ショックの関連についての研究を進めた。分析には、韓国、マレーシア、シンガポール、タイにおける銀行株価の日次データを使用した。具体的には、各国銀行部門の株価の大きな変動が、日本や米国の株式市場および銀行部門に生じたショックから影響を受けているかを実証分析した。その際、アジア危機以前、国際金融危機以前と発生以降の時期の違いも考慮した。その結果、2000年代における各国の銀行システムは1990年代よりも対外ショックを受けやすくなった可能性があることがわかった。本研究は平成21年度に国際コンファレンスとワーキングペーパーによって公表されている。来年度も学会等で報告し、改訂作業を続ける予定である。 次に、不良債権処理に関する研究を開始した。平成21年度は実証分析を行ったが、タイとマレーシアを対象に、公的機関による債権買取、個別銀行の特性、マクロ経済要因のどれが銀行の不良債権比率に影響を与えたのかを明らかにした。なお、マレーシアは危機後早くに債権買取機関を導入したが、タイは他のアジア諸国よりも遅く公的債権買取機関を設立したことから、両国を分析対象とした。分析の結果、債権買取に加えて、タイではマクロ経済要因が、マレーシアでは各銀行の規模が不良債権比率と関係していることが示唆されている。本研究は、来年度も作業を継続し、学会報告等で発表する予定である。
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