本研究は、戦前日本において政策を体現する主体として設立された国策会社について、経営史分析の手法を用いて比較検討を行うことを課題とする。具体的には、将来的に国策会社全体の比較分析を行うことを念頭に置いたうえで、そのためのパイロット・スタディとして、台湾拓殖株式会社(以下、台湾拓殖)と南洋拓殖株式会社(以下、南洋拓殖)を比較経営史の方法により分析することを課題とする。 分析対象となる上記2社のうち、台湾拓殖に関する分析は既に一定の蓄積水準に達していることを踏まえ、(a)台湾拓殖に関する分析のいっそうの蓄積、(b)南洋拓殖に関する資料収集、基礎情報の整理、データベースの構築、などの基礎作業の進展、(c)そうした基礎作業を踏まえたうえで、台湾拓殖との比較分析の進展、の3 点に取り組んだ。 (a)については、台湾拓殖の社債発行をめぐる政府、金融機関との交渉過程を内部資料に基づいて明らかにした論文を公表するとともに、業績悪化への台湾拓殖の対応をテーマに国際会議で報告した。(b)については、国立公文書館つくば分館に所蔵された閉鎖機関関係資料の調査を実施し、南洋拓殖が政府に対して提出した公文書に関する調査を進めるとともに、営業報告書、株主名簿、東京株式取引所「月報」などを用いて同社の経営に関する基礎情報を整理し、これらの作業をおおむね完了した。(c)については、南洋拓殖と台湾拓殖の金融構造の比較分析、および南洋拓殖の内部資本市場に関する分析を行った論文を作成し、現在投稿準備中である。なお、上記の直接的な成果に加え、国策会社と資本市場の関係を分析する過程で、戦前の資本市場に関する理解が深まったこともあり、戦間期の企業金融を分析した論文の公表という間接的な成果を得た。
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