本研究「障害マネジメント戦略のモデル構築に関する理論的研究」では、障害マネジメント(disability management)の概念にもとづき、日本企業のCSR(社会的責任)施策として展開可能な、障害(がい)者雇用を全社的に促進する戦略モデルの構築を理論的に行うことを目的としている。従来、障害者雇用は福祉的観点から行政の支援スキームのもとに進められる傾向が強く、企業の取り組み事例についても現場管理的な発想やノウハウを紹介するものは多く見受けられるが、戦略的なマネジメント・モデルを構想する志向性に乏しかったと言ってよい。こうした問題意識のもと、本年度は「中途障害者の雇用管理に関する理論モデルの構築:米国ADA法制の"合理的配慮"アプローチと障害管理プログラムの検討」という題目で、日本経営倫理学会年次大会において報告、同学会誌第17号に掲載された。本報告では、日本の中途障害者の雇用継続に関する近年の労働判例をまとめ、企業(使用者)側に求められる配慮義務について裁判所の判断傾向をとらえるとともに、米国のADA法(Americans with Disabilities Act of 1990)等の障害者の雇用差別禁止法制に見られる"合理的な配慮(reasonable accommodation)"アプローチとの比較を行った。次いで、米国企業の合理的配慮アプローチに準拠した障害管理(disability management)について考察し、中途障害者の雇用管理のモデル化を検討した。 研究実施計画全体との関係においては、関連文献の基本的なサーベイと問題の所在の明確化に努めることができた。これまで経営学的視点をベースとした障害マネジメントの理論的・実証的研究はまだ十分に蓄積されておらず、本研究は多少とも理論開拓に貢献できたと考える。
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