本研究「障害マネジメント戦略のモデル構築に関する理論的研究」では、障害マネジメント(disability management)の概念にもとづき、日本企業のCSR(社会的責任)施策として展開可能な、障害者雇用を全社的に促進する戦略モデルの構築を理論的に行うことを目的としている。従来、障害者雇用は福祉的観点から行政の支援スキームのもとに進められる傾向が強く、企業の取り組み事例についても現場管理的な発想やノウハウを紹介するものは多く見受けられるが、戦略的なマネジメント・モデルを構想する志向性に乏しかったと言ってよい。こうした問題意識のもと、本年度は、米国の職業教育団体であるDMEC(Disability Management Employer Coalition:障害マネジメント雇用者連盟)の年次国際会議(カリフォルニア州サンディエゴ、8月)に参加し、米国企業を中心とした障害マネジメント・プログラムの導入・実践について最新の情報を得ることに努めた。日本企業における職場復帰プログラムの課題を明らかにすることができ当該研究の遂行に資する結果となった。さらに昨年度の日本経営倫理学会年次大会において報告、同学会誌第17号に掲載された論文「中途障害者の雇用管理に関する理論モデルの構築:米国ADA法制の"合理的配慮"アプローチと障害管理プログラムの検討」に加筆し、研究代表者の学内研究室WEBページ(http://www.econ.tohoku.ac.jp/~takaura)に掲載した。加筆版では、厚生労働省労働政策審議会の障害者雇用分科会における直近の議論内容を反映することに努めた。 研究実施計画全体との関係においては、関連文献の基本的なサーベイと問題の所在の明確化を初年度に引き続き行うとともに国内の労働施策の動向についてまとめるに至った。これまで経営学的視点をベースとした障害マネジメントの理論的・実証的研究はまだ十分に蓄積されておらず、本研究は多少とも理論開拓とWEBベースでの知見の公開に貢献できたと考える。
|