新卒の大卒就職者の早期離職行動について、そのメカニズムを新入社員の心理的な要因から分析するために、平成22年度は昨年度に引き続いて先行研究をもとに以下の3尺度の開発に取り組んだ。その尺度とは、第一に「組織人としての資質」尺度、第二に「入社するにあたっての潜在的不安」尺度、第三に「内定先企業のイメージ」尺度である。本研究では、これらの尺度によって測定される心理的要因が、新卒の大卒就職者の早期離職行動を説明する重要な変数ではないかと仮定している。特に「入社にあたっての潜在的不安」尺度については、早期離職行動が入社「後」の労働環境だけではなく、入社「前」の自らの就職活動に対する満足度からも説明できるのではないかとの仮説に基づくものである。具体的には、学生時代の就職活動に対する「やり残し感」やそれに伴う将来への不安感などが、早期離職行動とどのような関係にあるかの関係を試みるべく尺度開発を行った。さらに平成22年度は、若手人材の定着に向けて企業が実際にどのような人材マネジメントを実施しているかについて、その実態の聞き取り調査を行った。調査対象の企業は家電メーカー、自動車メーカー、日用品メーカー、航空会社、鉄道会社などである。人材の定着に向けた人事政策の内容は企業によって多様であり、また同様の人事施策を実施していても従業員の受け止め方や効果には企業によってバラツキがあることが聞き取り調査から推測された。このように、平成22年度は、若手社員の心理的要因および企業の人事政策の運用実態の両面について探索的な研究を行った。来年度はさらに両者の関係性についての分析を行う予定であり、その準備段階として、両変数を媒介すると想定される「心理的契約」や「企業文化」などの概念に関する文献研究を本年度は行った。
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