研究概要 |
今年度は主に全社的リスクマネジメント(ERM)の理論・実証に関する研究の下地となる活動を行った。具体的には,文献収集による理論整理および実証分析と実施企業へのインタビューである。インタビューは,商社,小売業,私鉄,不動産,製造業等計8社に対して行った。インタビュー内容として,当社が行っているリスク管理体制や手法,特に不動産戦略に関する質問を行った。インタビューの成果は,来年度以降にERMのケーススタディとしてまとめていく予定である。 今年度の研究成果は,論文掲載3本,学会報告1本であった。学会報告「株価長期パフォーマンスの検定方法に関する分析」は,わが国株式市場において1~5年の長期的な株式パフォーマンスを測定する際,どのような手法を用いれば測定誤差を小さくできるかを検証した論文である。企業のERMの成果を測定する際,ファイナンスでは株価パフオーマンスを用いて測定するのが一般的であるが,リスクマネジメントという性質上その成果は長期的視点にならざるを得ず,本研究はそのための予備段階の研究として位置づけられる。 「保険制度の経済分析」は,リスクマネジメントにおける最も典型的な手法である保険に関して,その制度的特徴を経済学の視点から考察した論文となっている。 「The calendar structure of the Japanese Stock Market」は,わが国株式市場の季節構造を分析し,上半期(1-6月)の株式収益率が下半期(7-12月)の収益率を上回ることを示し,その原因分析を行った論文である。これもわが国株司式市場の特徴を調べた分析であり,最終的な成果であるERMと株価パフォーマンスとの関係について応用していく方針である。 「企業不動産マネジメントと株式市場」は,企業の不動産保有率が株価にどのような影響を及ぼすかに関して分析を行っている。実証結果として,不動産保有を高める戦略は企業全体のリスクを下げる方向に働くことが分かった。すなわち,不動産戦略は企業全体のリスクに影響を及ぼすことから,リスクマネジメント戦略の一環として応用することが可能となることが分かった。
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