研究概要 |
今年度は全社的リスクマネジメント(ERM)に関する実証データを集め,分析を行った。現在,ERMの議論の枠組みにおいて内部統制が盛んに言及されている。今年度は2010年度から開始されたJ-SOXによる内部統制報告制度を利用して,内部統制の不備,すなわち企業内リスクマネジメントに欠陥のある企業が市場でどのように評価されているのかについて分析を行った。本分析結果は,2011年4月の保険学セミナー(大阪)で報告し,コメントを基に論文を作成していく予定である。 今年度に出された研究成果は,論文掲載4本,学会報告1本であった。論文掲載のうち,2本は不動産リスクマネジメントに関する論文である。企業不動産(CRE)は企業にとって非常に重要な資産である一方で,全社的な見地からの不動産管理はまだ進んでいない。本研究は,神戸大学大学院経営学研究科の砂川伸幸教授とみずほ証券の協力により,新たな不動産リスクマネジメントの提言のために様々な角度からの分析を行っている。今回報告した内容を簡潔にまとめると,(1)ガバナンスがぜい弱な企業は多くの不動産を抱える傾向にあり効率的な不動産管理がなされていない可能性がある,また(2)企業の本社移転イベントに関して不動産の有効活用を理由に挙げている企業は市場から好意的に評価される傾向にある,というものである。不動産リスクマネジメントは来年度も継続して研究を行い,本研究のテーマであるERMの枠組みでまとめていく予定である。 また今年度は,「台風が及ぼすわが国損害保険会社の企業価値への影響」をテーマに,台風の上陸によって損保株にどのような影響がもたらされるのかについて分析を行った。その結果,台風の上陸が損保株にプラスの影響を及ぼすことが確認された。その理由としては,台風の上陸によって損保株の保険金支払いの増加が予測されるものの,将来の保険加入による収益の増大も予測されることから,その両者の兼ね合いとして平均的に損保の企業価値が上昇しているものと推測される。カタストロフィと保険会社の企業価値に関する研究はリスクマネジメントの研究においても重要なテーマであり,また2011年3月11日に発生した東日本大震災は日本に未曾有の大損害を引き起こしたことから,今年度は東日本大震災をテーマとした実証分析も行っていく予定である。
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