研究概要 |
本研究の目的は、企業活動のグローバル化にともない近年関心を集めている多国間の枠組みの中で共通適用される人事制度の設計と運用状況について検討し、その学術的・実践的進展に資する含意を抽出することである。平成23年度は本研究の最終年度にあたるため、これまでの文献資料研究にもとづく理論的考察と日米企業を対象とした事例調査の取りまとめを行った。文献資料研究からはグローバル人事制度を分析する上での基本的な視角((1)等級システム、(2)人材育成システム、(3)評価・処遇システム、(4)人事機能の統合・再編)を抽出すると共に、最近の資料を中心に日米企業のグローバル人事制度の動向について検討を加えた。また、これと併せて日米本社制度の比較分析をつうじて、制度の設計と運用に現れる組織と市場のコンフリクトに着目した考察を行い、グローバル人事の形成を展望する上での有益な示唆を得た。 事例調査では経営のグローバル化が進行している代表的業種の1つである電機メーカーを対象として、グローバル人事制度の設計・運用状況とその導入プロセスを分析した。その結果、グローバル人事の制度的な基軸となるグローバル等級やそれと連動して設計・運用されることの多いグローバルな報酬システムの整備状況については米国企業に顕著な進展が見られた。一方、人材育成に関わる施策に関して言えば,日本企業に制度整備・運用を進展させている側面があることを指摘することができる。一般に,グローバル人事制度の整備状況は欧米企業に対して日本企業が遅れていると評価されることが多いが,グローバル人事制度の導入プロセスに着目すると,そこには制度整備の進捗状況に加えてそのアプローチや力点の相違についても検討する必要があることが示唆された。
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