従来の組織的公正研究には、分析範囲が個人を取り巻く環境に限定される傾向があり、導き出されるインプリケーションも上司の信頼蓄積行動や評価活動を正確に行うなどといった一般的な結論が多い点や、明確な職務構造の中で評価することを暗黙の前提としており、明確な職務を規定していない、あるいは規定できない場合の説明力には疑問が生じるといった限界がある。本研究では、戦略論およびイノベーション研究の知見を援用し、より説明力の強い組織手公正理論め新たな理論的枠組みを構築することを目的としている。 本年度は、数社におけるアンケート調査およびインタビュー調査を実施したが、その主たる研究成果は、「組織的公正理論の発展に向けて:A社のケース」としてまとめた。ここではこの論文の内容を中心に成果報告をする。 本研究の分析は、組織的公正理論の先行研究で重視されてきた変数に加えて、戦略的な変数を取り込んで進めた。その結果、組織成員の公平性の知覚は、従来指摘されてきた変数に加えて、戦略・基本方針に基づく評価が行われていることが重要であることが示された。 特に、戦略に関わる変数が、組織成員の手続き的公正の知覚に影響を与えるという結果は、これまでの先行研究ではまったく無視されてきた点に、新たな光を当てたものであるといえる。この点で、本研究は、組織的公正理論の新しい発展の方向性を示したものであるといえよう。 また、実践的インプリケーションとしても、意味のある分析結果が得られたと考えられる。それは、人事評価における戦略の重要性を示したことである。実務では、より正確に評価するという技術的な側面に注目しがちであるが、どのような価値観を当てはめるのか、ということも重要であるということである。戦略を評価基準まで落とし込むことの重要性が改めて実証されたのである。
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