本研究では、従来の組織的公正理論に、戦略論およびイノベーション研究の知見を援用し、より説明力の強い組織手公正理論の新たな理論的枠組みを構築することを目的としている。 本年度の研究は、昨年度に引き続き、組織的公正理論の先行研究で重視されてきた変数に加えて、戦略的な変数を取り込んで進めた。Y社を対象とした大量サンプルによる統計的分析によって、手続的公正および分配的公正に対する戦略的な変数の影響を確認することができた。 第1に、先行研究で重要であるとされてきた変数について、検証することができた。手続き的公正については、評価基準、倫理性、客観性といった変数が有意な独立変数となり、分配的公正については、評価基準、客観性などが有意な独立変数となった。この結果は、三崎(2010)とも一貫した結果であると言える。この点で、適切な評価基準を用いることや、人事評価の際の客観性を担保すること、倫理性を保つことなどが組織的公正にプラスの影響をもたらすという従来の知見が確認されたといえる。 第2に、手続き的公正に対して、戦略に関わる変数が重要な役割を担っていることが示された。本論文では、戦略浸透、戦略に基づく評価という2つの因子を回帰モデルに投入したが、β値はそれぞれ.04、14であった。つまり、三崎(2010)同様に、戦略浸透だけでは十分ではなく、評価制度まで一貫して作りこむことが、手続き的公正の知覚に対して一定の影響力を持っていることが示されたのである。 なお、分配的公正についても、手続的公正と同様に、戦略浸透は統計的に有意なβを示さず、戦略に基づく評価では、有意なβを示している。
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