本研究は、リソース・ベースト・ビュー及び企業家精神パースペクティブを理論的な基礎として、移行経済における多国籍企業のパフォーマンスに影響を与える要因を探ることを目的とする。移行経済という特殊なコンテクストを理論的なフレームワークに含めるために制度理論を導入し、これら3つを理論的基礎として多国籍企業の移行経済におけるパフォーマンスを分析する。多国籍企業の移行経済でのパフォーマンス決定要因については多くの研究がなされているが、いまだ十分な知識が蓄積されていない分野である。移行経済における子会社経営の成否が多国籍企業にとって重要性を増していることを勘案すると、本研究は研究者及び実務家に対して貢献できるものと思われる。 本年度は、文献調査、インタビュー調査及びデータ分析を中心に研究を進めた。まず、先行研究をレビューすることにより、今後の研究の大枠を与えるフレームワークを導出した。先行研究から、移行経済における制度を多国籍企業のパフォーマンス決定要因とする研究は多いが、他の理論と制度理論とのインタラクションを考えたものは少ないことが分かった。そこで本研究は、リソース・ベースト・ビューを導入し、経営資源と多国籍企業のパフォーマンスの正の相関関係が、移行経済の制度によりモデレートされるという命題を研究の出発点とすることにした。この命題をもとに、日本及び中国にて日系中国子会社の経営に関するインタビュー調査を行った。インタビューの結果を検討し、前述の命題を改善、精緻化した。また、2008年度に日本企業の中国子会社を対象に行った質問票調査から得たデータの分析も行った。その1次的な成果を学会報告した後、さらにデータの分析を進めた。その結果、前述の命題を支持する実証結果が得られた。この成果は論文としてまとめられ、2010年度に行われる学会で報告することが決まっている。
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