本研究はリソース・ベースト・ビューを理論的基礎とし、移行経済において多国籍企業のパフォーマンスに影響を与える要因を探ることを目的とする。移行経済における企業活動を分析するためには、計画経済から市場経済への移行という特殊な状況を考慮する必要がある。そのため本研究では制度理論を2つ目の理論的基礎として多国籍企業の移行経済におけるパフォーマンスを分析するフレームワークを構築する。移行経済がグローバル経済に与える影響の拡大と、そこにおける子会社経営の成否が多国籍企業に与える影響の増大を考慮すると、本研究は理論的な貢献だけでなく、実務的な貢献もすると思われる。 本年度は、昨年度に行った文献調査及び日本企業の中国子会社に対するヒアリング調査に基づいて仮説を導出し、既に構築してある日本企業の中国進出に関するデータベースを用いて仮説検証することを中心に研究を進めた。そこから以下のようなことが分かった。まず、中国現地企業及び中国地方政府との人的関係の構築が、日本企業の中国でのパフォーマンスに正の影響を及ぼすことが分かった。人的関係の影響は常に一定ではなく、各企業の特性により変動することも分かった。これについては論文にまとめ、国際学会Academy of International Businessで報告することが決まっている。次に技術的経営資源が日本企業の中国でのパフォーマンスに正の影響を与えることも分かった。技術的経営資源の正の影響は、中国市場に関する知識によって強化されることも分かった。最後に、経営資源が豊富な企業ほど中国でのパフォーマンスが高いが、中国のビジネス環境の特殊性によって経営資源がパフォーマンスに与える正の影響が弱まることも分かった。
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