多国籍企業にとっての移行経済の重要性は年々増しており、それに伴い移行経済での事業をいかに成功させるかが重要な課題になっている。しかし、移行経済における多国籍企業の成功要因に関しては十分な研究の蓄積がなく、未解決の課題が多い分野の一つになっている。本研究は、多国籍企業の成果を説明するために先行研究で用いられてきたリソース・ベースト・ビューに、比較的新しいパースペクティブである制度理論を統合し、移行経済における多国籍企業の成果に影響を与える要因を探ることを目的とした。 まず、日本企業の中国進出に関するデータを分析し、中国の現地企業や地方政府との人的関係が、中国子会社の成果に正の影響を与えることが分かった。先行研究でも中国における人的関係の企業成果に対する正の影響が報告されているが、それらは中国企業の成果を扱ったものだった。本研究は、外国企業にとっても、中国においては人的関係の構築が必要であることを示し、この分野の研究に貢献した。 次に、日本企業が保有する技術や経営ノウハウなどの経営資源の、中国での子会社経営への正の影響が、中国の未整備な法制度によって弱められることが分かった。これは、未整備な法制度が取引費用を高めるためだと解釈される。さらに、競争の激しい市場においては、経営資源の成果への正の影響が強まることも分かった。この結果は、戦略的に重要な中国市場に多くの多国籍企業が経営資源を投入しているため、競争優位獲得のための経営資源の重要性がより強まるからだと解釈される。 さらに、日本企業の中国子会社について、1997年から2008年までのパネルデータを構築し、サバイバル分析を行った。その結果、完全子会社に比して合弁会社は中国市場から退出する確率が高いことが分かった。これは、中国現地企業との合弁に高いコーディネーション・コストが発生するためだと解釈される。
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