平成24年度は研究成果をまとめるために以下の作業を行った。これまで、人的資源管理に関する文献のサーベイを行って、多様な人事制度の概要を整理し、それらが生成された経緯や普及プロセスを整理してきたが、膨大な資料があるため、それらの整理を完成させることに注力した。その結果、これらの人事制度が企業に受容される過程で、徐々に変容するプロセスが明らかになった。そのような変容が発生する原因として考えられるのは、ポリティカルな要因である。企業では、なんらかの目的があって新しい制度の導入が検討される。しかしながら、その検討プロセスで、新しい制度を導入する合理性が必ずしも認められない場合があるが、それにも関わらず、その制度が導入されることがある。検討プロセスで利害関係者による様々な影響力が行使され、制度自体の目的や形態が変容することによって、制度導入が正当化されてしまうからである。このような変容プロセスは同じ環境にある複数の企業で観察される。これは、類似の環境にある企業が、同様の問題に直面し、同様の対応をすることから起こると考えられる。さらに、これらの企業間のネットワークにより、情報が共有され、制度の同型化が進みやすい事も要因と考えられる。本年度は、実際の導入プロセスを検討し、最終的にまとめる作業を行った。さらにこれらの事例を分析する枠組みとして、制度化理論とネットワーク理論がありうる。同型化圧力によって、類似の環境にある個体群は類似の制度を採用する可能性が高いことを指摘している制度化理論と、主体間の結びつきに焦点を当てるネットワーク理論の枠組みが、この現象を分析する上で有益な知見をもたらすと考えられ、これらの枠組みの整理を行ってきた。本年度はこれらの枠組みを観察現象に当てはめる作業を行った。
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