本研究の目的は、戦略変更が、なぜ難しいのかについて、単にその難しさの原因を特定するのみならず、戦略変更が、いかに行われるのかという変更プロセスの丹念な記述を通じて分析することにより、戦略変更を行う経営主体が利用できる診断ツールの開発を目指すものである。 当該年度は、ケーススタディの深化と方法論的基盤の構築を目指すことを主眼として、以下のように、研究を進めた。まず、ケーススタディの深化に関しては、これまで進めてきた富士通と日本IBMの戦略転換のケースを両社のトップ、山本卓眞と北城恪太郎の采配という形でまとめた。とくに、初期キャリアで温められた関心とスキルが戦略転換の大きな後ろ盾になったことが分かった。また、ヤマト運輸の宅急便事業参入とIT化の進化プロセスについてのケースも分析し、「ヤマト運輸の情報化」という観点でまとめた。とくに、同社のITシステムに関するスキルは宅配便事業参入以前のトラック事業時から蓄積されてきたものだが、宅急便参入後に構築されたそれは、トラック事業時のものと非対称であり、そうしたコンセプトの転換がいかに可能であったのかを詳述した。とくに、宅急便事業の進化に合わせて、柔軟に拡張ができるシステム構成が重要であった点を明らかにした。 一方、方法論的基盤の構築に関しては、すでに拙著『主体と客体の共進化プロセス』で概要を示したが、それを深化させる一方、あらゆる企業に影響を与えたIT化への移行局面を分析するための視座をどう得るかということを思考した。とくに、1970年代の半導体技術の深化を基盤としたME技術の進展、そして90年代に入って本格化するITのビジネスへの浸透によりビジネスシステムの構造的変化が引き起こされたが、それらを第3次産業革命として捉える歴史家の視点をさらに彫琢し、「コンピュータと通信の融合と第3次産業革命に関する一考察」という論文に、分析のための修正モデルをまとめた。
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