本研究の目的は、1997年の銀行危機後の日本企業を対象とし、企業統治のあり方がリストラクチャリング行動に与える影響を解明する点にある。本研究ではリストラ・カテゴリーとして、(1)資産売却、(2)雇用削減、(3)経営者交代、等の諸体系を想定している。本年度はこのうち、(1)に焦点をあて、どのような特性を有す親会社が子会社を売却する傾向にあるのかという課題について、近年わが国でも急増しているダイベストメント型(子会社・事業部門独立型)のMBO(マネジメント・バイアウト)に着目して検討を試みた。当分析は、"Divestment Management Buy-outs in Japan"として海外査読誌に公表され、(a)企業パフォーマンスが低く、有利子負債依存度が高い親会社ほど、傘下事業をMBOによって売却する確率が高い、(b)要定株主のプレゼンスが大きな企業では、ダイベストメント型MBOに消極的である、(c)多角化の程度が大きく、非関連多角化を展開していた企業ほど、MBOによって子会社・事業部門を売却する傾向にある、等の特徴が明らかにされた。 さらに、以上の検討を踏まえ、傘下事業をMBOで売却した親会社を株式市場がいかに評価したのかに関するイベント・スタディ分析も行い、ディスカッション・ペーパーとして公表した。分析の結果、(d)ダイベストメント型MBOを実施するというアナウンスメントは全体として株式市場からポジティブな反応を受けている、しかしながら(e)収益性の劣る(すなわち交渉力が弱い)親会社がMBOで子会社を売却した場合、株式市場の評価はネガティブに転じる、(f)他のリストラ手段と補完的に実施されることによって、売却企業の株価効果は増幅する、等の点が示された。
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