本研究の目的は、銀行危機(1997年)後の日本企業を対象とし、企業統治主体の性質がリストラクチャリング行動に与える影響を解明する点にある。 本年度は、それまでに構築したデータセットを拡充し、1990年代後半以降における日本企業の資産売却行動に関する包括的な検証を試みた。具体的には、日本企業が事業を売却する際、他企業に売却する場合(事業譲渡)と内部者に売却する場合(MBO)とで、いかなる差異が生じるのかに関する比較分析を行った。分析の結果、(1)低業績という特徴のほか、(2)低い安定株主の保有比率、(3)高い負債依存度という統治構造を持つ企業群において、子会社経営陣に事業を売却する傾向があることが確認された。本研究は、近年注目を集めるMBOによる子会社売却の基本的特徴について、他の売却類型と比較しながら明らかにした点で意義があるものと考えられる。同研究の成果は、数度の学会報告を経た後、国内査読付雑誌に掲載された。 また、「子会社売却型」に加え、抜本的な企業リストラの手段として活用されている「非公開化型」MBOの特性に関しても考察した。特に本年度は、MBO実施企業が提示する買収プレミアムの源泉がステークホルダーからの富の移転に起因しているか否かに関して検証した。その結果、バイアウト後において過剰雇用の削減による経営効率化の期待が高い企業ほどプレミアムの支払い水準も高く、従業員からの富の移転がプレミアムの源泉となっている可能性が示唆された。なお、同研究に関しても、学会報告、ディスカッション・ペーパーとして、その成果を公表した。 データセットを構築中の他のリストラ行動(雇用削減・経営者交代)の決定要因の解明とともに、それら一連のリストラ行動が当該企業の事後的なパフォーマンスにいかなる影響を及ぼしたかに関しては、次年度における分析の焦点の一つである。
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