本研究の目的は、日本企業の統治構造とリストラクチャリング行動の関係性に関し、両者の因果関係を明示的に扱いながら解明する点にある。本年度はこの研究目的に照らし合わせ、(1)事業売却と株式市場の評価に関する追加的な検証と、(2)経営統合と事後的なリストラクチャリング行動に関する検討を行った。 (1)の研究については、MBOによって子会社を売却した親会社に対する株式市場の評価を主な対象としており、本年度は子会社側の収益性や事業構造の状態を分析枠組み取り入れるなど、拡充されたデータセットでより精緻な分析を試みた。実証分析の結果、子会社に比して親会社の業績が良好なほど、親会社の相対的な価格交渉力が強化されるため、子会社売却に対する市場からの評価も高まる傾向がある一方で、親子間の役員兼任状態はいわゆる"セルフ・ディーリング"問題を引き起こしておらず、親会社株主の富を毀損していないことが確認された。本研究については、これまでに行った学会報告でのコメントを参考に加筆修正を重ね、国内査読誌への投稿を済ませた段階である。 また(2)の研究に関しては、1990年代末以降に急増した純粋持株会社による経営統合に焦点を合わせたものであり、その実施要因と統合後のリストラクチャリング行動の展開について、直接合併を選択したケースと比較しながら検証したものである。分析結果を要約すると、統合参加企業間で収益性の格差が小さい場合や、主たる業績が異なる場合は、人事・組織面の摩擦が大きくなると予想されるため、持株会社形態を用いた統合が選択される確率が高まること、統合後、業界平均で標準化した従業員数、負債比率、売上高原価率等に有意な減少が見られ、事後的な事業再構築がシステマティックに進展している状況が観察された。なお、本研究に関しては、本年度中に数度の学会・研究会報告を実施し、現在は海外雑誌への投稿に向け改訂を進めている状況である。
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