平成22年度は、「研究の目的」のうち、「広告会社の幹部に対してクリエイティブ・マネジメントの実態を調査する」を中心に、研究活動を遂行した。ただし、研究を進めていく中で当初予定していた「アンケート調査(対象社数が少なすぎて有効な統計分析が実施できない)」や「英国での定性調査(交付金額の制限)」を実施することはできないことが判明したため、代わりに「国内での定性調査」に注力することとした。 国内での定性調査の結果判明したのは次の各点である。まず、クリエイティブの質を高めるための様々な努力は各広告会社で行われてはいるものの、何らかの根本思想に依拠して体系的に行われているものは少なく、日常的なマネジメントにおける細かな点はもちろんのこと、組織構造などの大きな意味でのマネジメントについても場当たり的に行われることが多いということである。ただし、一部例外的に、クリエイティブチーム内で世代を超えて知の共有がなされている場合もある。次に、規模の面において、諸外国に比して日本のクリエイティブ組織は異なっているということである。マネジメントがより困難な大規模広告会社の大クリエイティブ組織が中心であり、クリエイティブ・ブティックの数が少ない。最後に、クリエイターがマネージャーになる際にMBA留学のようなレベルのマネジメント研修を受けているわけではないため、クリエイティブ出身のマネージャー自身がどのようなマネジメントをすればよいかについての確信がないということである。 これらの発見点はこれまでの国内外での研究では指摘されていない点であり、効率的かつ効果的なマネジメントの障壁とその解決法を考える上で重要な発見であったと言える。今後これらの点を論文化するだけでなく、今回は果たせなかった国際比較調査にも繋げていきたい。
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