本研究は、日本企業の企業間組織再編(企業再編、M&A)がもたらす企業価値向上効果を実証的に分析することを目的として平成21年度より研究を開始した。 本年度(平成22年度)においては、平成21年度に引き続き財務データを用いた企業価値向上効果測定の前提となる、M&Aに際しての企業の利益調整行動に関する実証研究を進めた。こうした研究を進める中で、研究代表者らは海外における企業再編に伴う利益調整行動に関する実証研究とは異なる独自の仮説(買収企業側ではなく、被買収企業側が減少型の利益調整行動を行なっている)を提示してその検証を行った結果、日本企業は仮説と整合的な利益調整行動を採っており、その行動パターンは企業再編に当たって海外の企業とは異なることを明らかにした。 このような研究成果は国内外の先行研究では得られていないものであり、極めて先駆的な結果であると考えられる。この成果の貢献としては、以下の2点が考えられる。まず1点目は、財務データを用いた企業価値向上効果測定の手法に対する貢献である。今後、企業価値を財務業績によって測定しようとする場合には、その際の利益調整行動を加味して行うことが求められると考えられる。2点目は、M&Aに際して日本企業において行われている利益調整行動について、先行研究にはない新たな仮説を構築・検証することの必要性に光を当てた点である。今後、M&A時の利益調整行動を測定する研究を行う際には、日本企業の企業行動に照らして整合的な独自の仮説を掲げて行う必要があるといえよう。 こうした研究成果に関して、研究代表者らは国内外の学会において報告するとともに、学会報告書及び学術雑誌において積極的な公表を行っている。
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