本年度は、産業間相互作用の実例として、インクジェット・プリンター産業とデジタル・スチル・カメラ産業を取り上げ、その両産業における競争的相互作用を通じた経営資源の蓄積と利用プロセスの分析を進めた。より具体的には、インクジェット・プリンターの高解像度化とデジタル・スチル・カメラの高画素化が進展していく現象を取り上げた。これまでは、ある特定の産業の枠組みの中において競争と資源蓄積の関係が論じられてきたように思われる。これに対し本研究では、互いに連関し合う複数の産業間での競争と資源蓄積の関係を論じている、という点において、分析対象とする競争空間の拡張を狙っている。 本年度はさらに、プリンターの複合化プロセスの分析も進めた。デジタル化が進展していく中で、複写機やプリンターといった製品は、ファクシミリ機能やスキャニング機能、転送・編集機能など、実に多様な製品機能を内包するようになり、複合機化が著しく進展している。これらは一種の産業間関係の変化であり、既存の伝統的な産業枠組み、産業の境界線が崩れた事例であろう。この事例分析を通じて、インクジェット・プリンターとデジタル・スチル・カメラとの関係とはまた違った産業間相互作用メカニズムが明らかになるものと期待している。次年度調査への橋渡しとして、これら複数業界に属する企業への訪問聞取り調査を国内外で実施した。 これら調査の成果として、本年度は国際カンファレンスでの研究発表、および研究雑誌での論文発表という2つを実現した。もちろんこれらにはそれぞれ今後の課題が提示されたので、次年度以降の研究に活かしていくこととなる。
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