研究概要 |
今年度は,組織内の行為者たちの「信念体系」と「組織構造」とを明らかにし,それらの相互作用を分析することによって,組織が過去の誤った戦略に固執・執着してしまう組織的なメカニズムについての考察を試みた. より具体的には,沼上(2003)で定式化された分析手法を応用して,製品差別化戦略を追求することで収益性の低迷に苦しんでいる企業が更なる製品差別化戦略を「再生産」してしまうメカニズムを,企業内の行為し行為者たちの意図に基づく因果モデルの構築を通じて試論的に提示した.この研究の結論として,「製品差別化戦略は経営成果を高める」という信念と,「新技術を開発することは良いことだ」という信念を企業内の多くの人々が共有している場合,「製品差別化戦略」が経営成果を高めない,という事実が観察されたとしても,上述の信念は修正されず,むしろ経営成果を高めないような製品差別化戦略が繰り返されてしまうことがありうる,というメカニズムを提示した. また,組織的なエスカレーティング・コミットメントが生じている事例を導出するために,造船業における製品戦略と経営パフォーマンスとの関係について限定的ながら実証分析を行った.この研究の結論として,造船業において製造リードタイムの長い製品の製造比率を高めるような製品多様化戦略は,生産ラインにおける単位時間あたりの製品の生産数量を低下させてしまい,習熟効果の達成も阻害するため,収益率にマイナスの効果をもつ.またこの点で,もし製造リードタイムの長い製品が単品として見ると利幅の厚いものであったとしても,製品の生産数量の効果と習熟効果は,直感的な予想よりも大きいため,このマイナス分を埋め合わせることが難しいという結論を導出した. 本研究の試論的考察と実証分析は,平成21年度に発刊された近畿大学経営学部の研究紀要『商経学叢』に発表した.(776字)
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