研究概要 |
今年度は,企業内の行為者たちの「信念体系」とそれらの「信念体系」が維持される「組織構造」を分析することによって,業績の低迷に苦しんでいる企業(事業部)が,たとえその意思決定者(CEOないし事業部長)が途中で変更したとしても,その低迷状態の原因となっている戦略を「再生産」してしまう組織的なメカニズムについて考察を試みた. より具体的には,日本の代表的な総合重工業メーカーを事例として,以下のような結論を導出した.企業の持続的成長と収益性の安定を目指して行われた総合重工業メーカーの造船事業を起源とする多角化戦略の追求は,企業内における造船事業の相対的地位を低下させるだけでなく,企業全体の成長に伴い造船事業の人件費などの固定費も上昇させたため,国内外の新興造船メーカーと比較して高コスト体質になってしまった. 他方,企業内における造船事業の相対的地位の低下は,造船事業に対する企業内の資源配分プロセスを変化させるため,造船事業に対する大胆な設備投資が行なわれにくい状況が作られてしまう.その結果,造船業が一度衰退し再成長局面に入った際,不況期に低コスト体質で経験を積み,ローエンド型破壊的技術の特性を帯びた国内外の造船メーカーが急速に成長したため,総合重工業メーカーの造船事業部は,設備投資が行われない状況の中で,事業部内の固定費を回収しなければならないため,粗利益率の高い製品しか製造せざるをえなくなり,低迷状態の原因となっている戦略を「再生産」してしまった,ということである. なおこの調査結果は,平成22年度に発行された近畿大学経営学部の研究紀要と,組織学会の研究発表大会で発表された.
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