米国や日本をはじめとする多くの先進国企業がグローバル化の進展による競争の激化、世界的同時不況、および、産業の成熟化によって経済の停滞に苦しむ中、韓国や中国、台湾などのアジア企業群は先進国企業に遅れながらも短期間で急成長を遂げ、世界的なシェアを伸ばしてきている。その急成長は、政府のバックアップ体制や時代背景など、国特殊性の違いが影響を及ぼしているだけでなく、主体的な活動や戦略による独自のイノベーション・プロセスを持っていると考えられる。しかし、それらのイノベーション・プロセスに関連する情報は社外秘によって成り立っており、重要性を認識しながらも研究が進んでいないのが現状である。 これまで、それらの企業への聞き取り調査を中心に研究を進めてきたが、実証に限界がある点、および、公に情報を提供できないなどの点から研究を質的に深めることに限界があった。従って、本研究では、「特許」という定量的な観点から、特許取得研究者の動きに注目しイノベーション構築プロセスを論証していくことを研究目的としている。 最終年度である本年度は、これまで収集した三星の特許データを詳細に分析することで研究者の移動とその影響を明らかにすること、また、三星技術研究院で10年以上主席研究員として勤務していた元研究員とのインタビューで三星電子における特許取得とイノベーションの関係、および、研究者の移動とイノベーションの関係に関する聞き取り調査を行うことで理論構築を試みている。その結果、早期に外部から移動してきた研究者がその後内部や新規で採用された研究者と共同研究をすることで主軸の研究者としての役割を果たすことを特許の出願状況から把握することができ、また、そのような主軸の研究者は比較的長期間三星に留まることが分かった。さらに、単年度(2004年)における研究者間の関係を図示することで実証的な説明力を付加することに成功した。
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