研究概要 |
平成21年度は、鉄鋼業の部門業績管理を明らかにすることに重点を置いた。新日本製鐵の管理職のOBに対するオーラル・ヒストリーを行い、業績管理の制度体系およびその運用実態を明らかにした。その成果は、「鉄鋼業における部門業績の目標管理制度」(東大社研『社会科学研究』第61巻第5,6号)にまとめられた。本稿では、鉄鋼業の部門業績管理が目標管理制度として運用されている点に注目し、(1)大手鉄鋼メーカーの戦後の業績管理の制度的変遷、および(2)釜石製鉄所の業績管理制度の運用実態を明らかにした。本稿の結論は下記の通りである。 第一に、八幡製鉄をはじめとするいくつかの大手鉄鋼メーカーにおいては、コストセンターとして主体的に目標を設定する権限を工場に与えると同時に、それを全体の利益計画と密接に連動させ、組織内での密度の濃いすり合わせを行うという部門業績の目標管理制度が1960年代後半期には形成されていたと考えられる。 第二に、この制度形成の前提となったのは、スタッフ部門の作成した各種の「標準」との差異で現場の業績を管理するという発想からの脱却であった。鉄鋼業における目標管理制度の普及は、こうした組織内分業のドラスティックな変化と連動していたのである。 第三に、釜石製鉄所の事例分析からは、部門業績の目標管理において、経営参加と企業内競争という2つの要素が動機付けの機能を果たしていることがわかった。事業所間の競合関係を業績向上へのインセンティブとして利用し、各級従業員の主体的貢献を誘引していた。こうした目標管理が、1970年代から80年代の減産体制のもとで、コスト低減に広い範囲の従業員を動員し、釜石製鉄所の生産性向上に寄与したと考えられる。
|