小売企業は,業態ライフサイクルの成長期にBM市場(Big Middle市場)への参入を目指す。このとき小売企業は,価格訴求型かサービス訴求型のフォーマットをもって参入する。本研究は,この参入プロセスに焦点を当て,価格訴求型,あるいはサービス訴求型のフォーマットを開発した小売企業が,いかにしてBM市場を作り出すのかをケースを用いて分析した。 ケースの分析を通じて得た知見は,以下の通りである。従来の研究では,小売企業が,フォーマットを市場適応的に改善し,すでにあるBM市場へと参入するプロセスが想定されていた。つまり既存研究においてBM市場とは,小売企業にとって与えられた市場条件である。小売企業は,価格訴求型であれ,サービス訴求型であれ,小規模な市場から参入し,店舗フォーマットやサプライチェーンの改善によって,BM市場へと参入すると考えられてきたのである。しかしケースを分析するなかで,既存研究と異なる小売企業の行動が明らかにされた。 小売企業は,BM市場への参入プロセスにおいて,市場構造を所与としない。言い換えるならば,小売企業は,市場構造を変えることによって,BM市場を作り出していく。BM市場は,小売企業による店舗フォーマットやサプライチェーンの改善によって,それまで分断された市場セグメントをまとめ上げることによって作り出される。 このような小売企業の行動は,マーケット・ドリブンとして捉えることができる。したがって既存研究はマーケット・ドライブンという市場適応型の行動によるBM市場参入行動を想定してきたとも言える。そして本研究は,マーケット・ドリブン型のBM市場参入行動が存在することを理論的に解明したと言える。
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