2009年度における本研究は、近年の革新的技術を応用することによって、顧客の求めに応じて彼ら個々人に対してカスタマイズした製品を低価格で供給するという、「マス・カスタマイゼーション」をめぐる企業のマーケティング活動と、それと対を成す消費者行動とを探究しようとする全体的研究構想の中で、マーケティング戦略論・消費者行動論・流通論、コミュニケーション論といった様々なマーケティング論の下位分野の知見を活かすことによって、本研究取組者がこれまで取り組んできたマス・カスタマイゼーション研究を深化・拡張させてきた。第1に、マーケティング戦略論的マス・カスタマイゼーション研究に関して、本研究は、マス・カスタマイズ製品の製造業者が消費者ニーズを把握するための情報受信の熟達度と、消費者に自社製品を理解させるための情報発信の熟達度に焦点を合わせて応用モデルの開発を試み、実証分析を完了させた。第2に、消費者行動論的マス・カスタマイゼーション研究に関して、膨大な選択肢からの選択という複雑な意思決定状況下での最適化モデルを開発し論文を執筆した。第3に、流通論的マス・カスタマイゼーション研究に関して、製造業者が自社にカスタマイズ化された流通サービスを提供させるために流通業者と長期的関係を結ぶ様子を描写した因果モデルの実証研究を行った。このうち、第2の研究と、第3の研究については、目に見える形の研究実績として結実した。すなわち、前者は、Journal of Business & Industrial Marketing誌に掲載され、後者は、5th Biannual World Conference on Mass Customization & Personalizationにて学会発表がなされた。さらに、第1の研究についての成果も併せて編纂された、200ページの未公刊論文「マス・カスタマイゼーションを巡るマーケティング戦略と消費者行動」は、学内昇進審査の対象となり、本研究取組者を准教授から教授へと導いた。
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