研究概要 |
1980年代以降,製造業者が自社製品を販売する際にいかなる流通チャネル形態を用いるかというチャネル選択問題に関して,取引費用理論を用いた分析が行われている。その結果,取引費用理論がチャネル選択問題を検討するうえで有用な理論の1つであること,特に資産特殊性が流通チャネルの統合やコントロールを説明するうえで重要な要因であることが明らかにされている。他方で,この分析には,いくつかの問題点もある。それらの問題点として,例えば,その分析において,生産の状況(例えば,生産・流通活動が実際に遂行される場合)や動的な状況(例えば,企業家的活動によって革新的な製品や生産・流通方法が創造される場合)における諸要因が軽視される傾向があることが挙げられる。こうしたなかで,現在,それらの問題点を補う理論として,ケイパビリティ理論と呼ばれる新しい理論が発展している。それは,取引費用理論が軽視する傾向がある生産の状況や動的な状況における諸要因に注目して,取引形態の選択問題や企業の境界問題を説明する理論である。 こうした状況を踏まえ,筆者は,チャネル選択問題をケイパビリティ理論と取引費用理論の観点から理論的かつ実証的に分析するという大きな枠組みのもと,研究を行っているが,本年度は主に次のことを行った。1.「海外流通チャネルの選択問題:ケイパビリティ理論と取引費用理論による分析」という研究を2009年7月にAMS主催の国際学会で発表した。2.「取引費用要因とケイパビリティ要因がチャネル統合度に及ぼす影響」という研究を行った。この研究では,チャネル統合の説明要因として,取引費用要因とケイパビリティ要因のどちらがより重要であるかという問題を理論的かつ実証的に検討している。この研究成果については,2010年2月に日本商業学会の関東部会で報告を行った。また,今後,2010年5月に同学会の全国大会で報告を行った後,論文として公表する予定である。
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