研究概要 |
企業の境界問題や取引形態の選択問題を検討する理論として,取引費用理論がよく知られているが,その不十分な点を補うものとして,1990年代以降,ケイパビリティ理論と呼ばれる新しい理論が台頭している。取引費用理論とケイパビリティ理論は,同様の現象を異なる理論的な概念を用いて説明するために,競合する理論として解釈される可能性もあるが,近年,多くの研究者によって,それらは補完的な関係にあり,総合化される必要があることが指摘されている。こうした状況で,筆者は現在,その2つの理論の総合化を,チャネル選択問題を扱う中で試みている。平成22年度においては,(1)取引費用要因とケイパビリティ要因がチャネル統合度に及ぼす影響と,(2)市場の異質性がチャネル選択に及ぼす影響について研究を行った。(1)では,その2つの理論それぞれの主要仮説を卸売チャネルの統合問題において,構造方程式モデルと階層的回帰分析を用いて経験的にテストした。その結果,人的卸売資産の特殊性と物的卸売資産の特殊性という取引費用要因と,製品知識の技術的複雑性,生産・卸売活動間の相互依存性,卸売市場の厚みというケイパビリティ要因が,卸売チャネルの統合度に有意な影響を及ぼすことが示された。(2)では,その2つの理論を用いたチャネル選択仮説のうち,特に重要なものを取り上げた上で,それらの仮説を国内市場における卸売チャネル選択と海外市場における卸売チャネル選択という2つの状況に適用して,多母集団同時分析を行った。その結果,製品知識の技術的複雑性,生産・卸売活動間の相互依存性,卸売市場の厚みが卸売チャネルの統合度に,人的卸売資産の特殊性と物的卸売資産の特殊性が卸売チャネルの閉鎖度にそれぞれ有意な影響を及ぼすことが,国内市場と海外市場の双方で確認された。また,人的資産の特殊性のチャネル閉鎖度への影響力が国内市場で特に大きくなることが示された。
|