イノベーションを生み出す企業間ネットワークに関する理論的な検討とケース分析を行なった。昨年度に続いて、企業間ネットワークのあり様が企業のイノベーションにどのような影響を与えるかについて研究を行なっている。本研究では、企業間ネットワークを特徴づけるために、社会的ネットワーク分析の理論的成果を応用し、「紐帯の強さ」(tie strength)や「ネットワーク密度」(network density)などの概念を用いている。昨年度の調査の結果から、この問題に関して、強い紐帯の凝集的なネットワークと弱い紐帯の分散的ネットワークのどちらがイノベーションに正の影響を与えるかというような単純な結論を出すことができないことが確認された。そこには複雑な関係があることが推察された。昨年度は特に企業の規模や業種などを特定していなかったが、本年度はベンチャー企業を含む中小企業に焦点を当てた。いくつかのケース分析を行なう中で、革新的な中小企業に特徴的なある企業間ネットワーク形成の方法がみえてきた。それらの革新的な中小企業は、特定の大企業との強い紐帯を維持しながら、大企業のもつ資源などをうまく活用し、一方で、研究所や大学、異なる分野の企業との弱い紐帯をもっていた。つまり、強い紐帯の凝集的なネットワークを維持しながら、一方で弱い紐帯の分散的なネットワークを形成するというネットワーク形成の方法である。それは「両手利きのビジネス・ネットワーク」(ambidextrous business networks)と呼ぶことができよう。この研究の成果については、来年度に国際学会で研究協力者とともに報告する予定である。
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