今年度は、本研究の基礎的な概念モデルとなっているIppolitoのシグナリング広告理論から実証モデルを導くことが最も重要なテーマとなった。シグナリング広告機構に関する従来の研究成果を渉猟すると、概念的研究のレベルにおいては競合する複数の理論モデルが内部妥当性と外部妥当性をともに相争っている一方、経験的研究のレベルにおいては関連する研究成果そのものが極めて乏しいことが判る。これをさらに精査すると、その乏しい成果の多くは概念モデルを十分に写し取っていない実証モデルによった業績か、学生等の限られた潜在顧客セグメントを対象とする実験的手法によった業績であり、現実の市場で採取されたデータに基づく正統的な実証研究の成果は甚だしく不足していると言わざるを得ない状況にあることが判明した。そこで今年度、本研究ではシグナリング広告機構に関する実証モデルを設計思想からゼロベースで再構築することにした。具体的には、概念モデルの描写するシグナリング機構を2つの性質の異なるシークエンスに分割してシークエンスごとに異なる実証モデルを適用し、複数の実証モデルで1つの概念モデルが描写する機構の実証を企図した。今後、引き続き発表してゆくことになる一連の研究論文群の最初の1篇に示された当プログラムの研究方法の転換は、1つの概念モデルの描写する機構全体を1つの実証モデルで捉えようとした先行研究の困難を克服する画期的提案を含んでおり、当該領域における実証研究業績の生産数を飛躍的に増大させる契機となりうる重要な意義を持つ研究手続上の貢献と考えられる。
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