本研究では昨年度から品質シグナリング広告理論に共通するシグナリング機構を2つの性質の異なるシークエンス(「広告支出による高品位市場参入シークエンス」と「低品質提供による懲罰的市場退出シークエンス」)に分割し、シークエンスごとに異なる実証モデルを適用することで1つの概念モデルの全体を実証するよう研究計画を微調整している。 もちろん、この微調整は研究目的の変更を伴うものではない。概念的シグナリング機構モデルの駆動条件を構成する理論的構成概念(高品質価格プレミアム、広告ストック、ボンディング広告等)の現実的対応物を見出し、蓄積ある理論研究成果の応用可能性を高めるという研究上の意義、政府・企業・消費者に共通の意思決定要素を供することで広告の情報としての価値を高め市場の円滑な駆動を促す社会経済的意義、不正な広告主企業による消費者被害を防ぐ一方で広告の市場競争促進効果を殺がないような広告規制の適度な水準を見出す基礎を供するという政策的意義を併せもつ当初の研究目的を、一層正確な方途で達成しようとする「手段における調整」である。 今年度は後半部、企業が広告によって参入した高品位市場において期待される品質を提供しなかったことで懲罰的に退出を強いられるシークエンスの実証を計画・実施した。当初、後半シークエンスの実証研究は米国における反トラスト法運用実態の取材、使用後の知覚品質の決定要因の心理学的調査研究、企業の想定する知覚品質の決定要因の調査を伴う計画だったが、現在は後半部の確実な駆動を公開された経営指標の時系列分析のみで実証する方針に微調整して進めている。これもまた当初目的を一層正確な方途で達成しようとする「手段における調整」で、シグナリング機構め駆動を外形的に実証しうる産業を予め特定することで、他国の法規制運用調査等の焦点を絞り、より有益な成果を生み出す意図と意義を有するものである。
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