本研究は、民営化が進展する日本と欧州中でも英国の鉄道事業を対象とし、産業組織の再編と設備投資、安全性、そして全国規模の政策立案との関係を考察することにより、各国の市場環境に応じた最適な産業組織のあり方を経済学の観点から分析するものである。 平成23年度は、この内、鉄道事業の民営化における産業組織の再編と全国規模の政策立案の関係性という観点から研究を行った。まず、英国鉄道(BR)の民営化後に旅客鉄道のフランチャイズが営業区域および期間に関して再修正された背景について、英国交通省、鉄道規制局(ORR)、ネットワークレール社、鉄道事業者、地域自治体、英国議会などの資料を用いて調査を行った。その結果、競争を重視して旅客フランチャイズを細分割した結果、事業協調を要する全国ネットワークや汎欧州交通網計画といった全国規模の政策との再調整が不可避となることが明らかとされ、また、市場環境に応じたフランチャイズの再設定を事後に柔軟に行えるような産業組織の制度設計が必要となることも明らかとなった。 さらに、昨年度に引き続き、欧州の鉄道事業の民営化後の産業組織の再構築状況について調査した。例えば、フランスにおいてパリ都市圏の鉄道整備計画の事例を調査することで、地域自治体間の旅客流動の規模や中央政府と地域自治体の交通政策の関連性が産業組織に影響を及ぼすことなどが得られた。 このように、欧州の議会資料や研究業績などに基づいて、鉄道事業の産業組織が再編される際の政策決定過程を読査した結果、全国ネットワークの規模に応じた産業組織の修正が課題となることが明らかとなった。 本研究を通じて、鉄道事業の産業組織の構築に際して、設備投資、安全性、そして全国規模の政策立案に配慮する必要のあることが改めて確認された。これらの考察内容を踏まえ、産業組織の再編のあり方について交通事業全体に拡張させて引き続き研究を進めていく予定である。
|