研究概要 |
本研究は日本における実証的会計研究で用いられるデータの特性を明らかにすることを通じて実証結果の信頼性を高め,日本企業を対象とした実証的会計研究のさらなる展開と国際的な発信能力を高めることを目的するものである. 本年度においては,実証的会計研究で中心的なテーマとなっている利益調整(earnings management)の調査を進めた.海外の研究の議論をふまえ,より広範な企業活動を通じた実体的調整とともに会計的調整を対象として,利益調整の手法に関する比較分析を実施した.まず,販売活動,調達(生産)活動,資産(固定資産・有価証券等)の売却,裁量的費用,減価償却・引当金の計上に関する利益調整を推定するモデルを提示し,その上で,1990年から2009年までの日本の上場企業を対象として,いかなる利益調整がどの程度実施されているのか,そして,時点間で変化しているのかについて検証した. 分析の結果,企業は多様な手法を組み合わせて利益調整を実施しており,それは,実体的調整,会計的調整に及んでいること,各手法について,平均的には,利益の削減,増加について首尾一貫したパターンはなく,時点間によって異なることから,経済状況,会計制度等の影響を受けている可能性があることが見出された.一方,各項目の異常部分を推定するモデルの精緻化を図ること,利益調整に関する個別尺度を積み重ねて集約的指標を作成する方法の構築,各手法の関係パターンの考察(あるいは発見)が課題であることも明らかとなった.
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