本年度は、前年度構築した事象サイクルの要素を発展し、そのモデル化に取り組むとともに、事象サイクルモデルとアメリカのサイクルモデル(Paton and Littleton[1940])との比較に取り組んだ。 その結果、当初7つに分けられていた事象サイクルは、現金サイクル、投資サイクル、財務サイクル、稼得サイクルの4つのタイプに集約され、現金サイクル、投資サイクル、財務サイクルは常に未完結の状態、稼得サイクルは常に完結した状態にあることが分かった。また、現金サイクル、投資サイクル、財務サイクルの3つのサイクルは貸借対照表を説明する上で有用であり、稼得サイクルは損益計算書を説明する上で有用と分かった。さらに、Paton and Littleton[1940]で使用されているサイクルの概念は、上記4つのサイクルのうち、稼得サイクルに位置づけられることが分かった。 元帳記録を分析した結果、すべての事象は常に2つのサイクルに関係しており、複式記入は2つのサイクルの変動を記述していると分かった。Paton and Littleton[1940]のモデルが稼得サイクルのみを使用していたことを考えれば、本研究で構築した4つのサイクルを使用した場合、従来の理論を発展する新しい財務諸表理論、財務報告理論が創出される可能性がある。 来年度は、4つの事象サイクルをそれぞれ操作可能なモデルとして記述するとともに、ヨーロッパのサイクルモデル(Schmalenbach[1926]、Kafer[1966])との比較を行う。その上で、4つの事象サイクルを用いて新しい財務諸表理論の可能性を検討する予定である。
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