研究概要 |
本年は,収益認識の問題を含め国際的な基準を作成しているIASBの正統性と,これまでの収益認識に係る基準設定の歴史的経緯について考察した。 まずIASBの正統性については,正統性の概念的研究のフレームワークとしてしばしば引用されるSuchmanによる正統性概念の分類をてがかりとして,IASBに求められている正統性とはいかなるものなのか,すなわちIASBが基準設定機関としての正統性を獲得するための要件は何なのかを明らかにし,IASBの正統性の問題点を検討した。その結果,先行研究においてはさまざまな意味においてIASBの正統性が論じられてきたが,性質(特徴),結果,手続,人,理解可能性(妥当性)という5つの点で,IASBの正統性を否定しかねない問題をはらんでいるということが明らかになった。これまで,IASBが作成する基準の内容に多くの関心が向けられてきたが,本研究は,それらの基準が拠って立つ広い意味での制度的基盤に焦点を当てた点で先駆的研究であるといえる。 また収益認識の歴史的経緯については,IASBとFASBとによる収益認識の共同プロジェクトにおける議論の変遷を辿り,その問題点を検討した。その結果,議論の紆余曲折の兆候は収益の定義について最終的な合意に達しないまま議論が進められた点にすでに現れていたこと,および,資産・負債アプローチの多義性に議論の紆余曲折の一因があることを明らかにした。本研究は,これまで断片的に取り上げられてきた収益認識の議論を通覧できる点で重要性をもっている。
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