日本の上場企業は、決算発表の際、当期の実績数値に加え、経営者による次期予想数値の公表も行っている。こうした決算発表制度は他国には類を見ないものである。本研究課題は、このような日本独自の決算発表制度が、株式市場における投資者間の公平性の確保に寄与し、主として個人投資家と機関投資家との情報格差の改善に役立っているかどうかを分析しようとするものである。2年目にあたる本年度は、次の研究課題に取り組んだ。すなわち、(1)個人投資家と機関投資家は決算発表の際に公表される情報をどのように利用して取引を行っているのか、そして両者が利用している情報に相違はあるのか否かを分析しまた(2)内部統制の不備が、経営者の公表する予想利益の精度に影響を及ぼすか否かを分析した。さらに、(3)決算発表とは無関連に、企業固有の情報格差の度合いが、株式持ち合い構造によって影響を受けるか否かについても分析を行った。(1)の研究では、個人投資家に代表される小口投資家は、決算発表の際に公表される情報だけに基づいて単純に取引を行っている一方で、機関投資家に代表される大口投資家は、決算発表以前に公表される重要な事前情報と決算発表時に公表される情報とを総合的に分析して思慮深く取引していることを明らかにした。また、(2)の研究では、内部統制に何らかの欠陥があると報告した企業の経営者ほど、予想利益の精度が著しく低いことを発見した。さらに、(3)の研究では、株式持ち合いが相対的に多い企業ほど、情報格差が大きいことを明らかにした。(1)と(2)の研究における発見事項は、個人投資家の意思決定の改善に寄与するであろう有力な証拠であり、これらの研究結果は英文でまとめて、海外ジャーナルへと投稿した。現在、掲載に向けて鋭意改訂中である。また、(3)の研究は、他大学でのセミナー報告などを通じて得られたコメントをもとに、分析をさらに精緻なものへとすべく努力しているところであり、今後英文でまとめて、海外ジャーナルへ投稿する予定である。
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