本研究では予想利益の質と個別リスクの関係について分析を行った(大阪学院大学・奥田真也准教授との共同研究)。日本の決算短信制度では、当期の実績利益情報のみならず経営者による次期の予想利益情報も公表することが要請されている。そこで、利益の品質と投資家のリスク評価との関係をより包括的に理解するためには、実績利益の品質のみならず予想利益の品質とリスク評価との関係を分析する必要がある。 このような問題意識に基づき、本研究では主に以下の2つの分析を実施した。第1に、経営者予想の品質と個別リスクとの関係についての分析である。高品質の情報は情報リスクを低減することから、経営者予想の品質が高い企業ほど個別リスクは小さいことが期待される。第2に、企業の情報環境が経営者予想の品質と個別リスクの関係に与える影響についての分析である。情報環境が悪い状況下では、経営者予想情報が相対的に重要な情報源となる。そこで、企業の情報環境が悪いほど、経営者予想誤差と個別リスクとの関係は強くなることが期待される。 予想利益情報の品質の代理変数には経営者予想誤差、個別リスクにはFama-Frenchの3ファクターモデルの残差の標準偏差を用いた。分析の結果、経営者予想誤差が大きいほど個別リスクは小さくなることが確認された。また、情報環境が悪い状況(企業規模が小さいまたは個人投資家持株比率が大きい状況)では、経営者予想と個別リスクとの間の関係がより強くなるという仮説と首尾一貫した結果が得られた。 上記の研究成果は、2013年5月に開催される日本ディスクロージャー研究学会の第7回研究大会(於: 福島学院大学)において発表予定である。また、論文は神戸大学大学院経営学研究科のディスカッション・ペーパー・シリーズにて公開予定である。
|